ソリッドタイヤモデル

(1) ソリッドタイヤモデルによる説明
タイヤの最も簡略化されたモデルとしては,図7.4.1に示すような剛体円板(リム)の外
周部に弾性体(トレッドゴム)をもつソリッドタイヤモデルがある。 このタイヤが進行方向
に対して, タイヤ中心面がαの角度を保ち, 横すべりしながら転動している状態を考える。
なお、この横すべり角αはスリップ角とも呼ばれている。
このような転動状態にあるソリッドタイヤに注目し, タイヤに固定された座標系から接
地部を見ると、路面が後方に移動しており, トレッド表面は接地部の前端で路面と接触し、
時間の経過とともに路面との接触(粘着) を保ちながら横後方(図の下方)へ移動する。 この
ような状態にあるタイヤの垂直断面形状は図7.4.1 (右) に示すように, トレッド表面が路
面によって横方向に押され, トレッド部がせん断変形を起こし, それによって横力が発生
している。なお,せん断変形量はトレッドが後部に移動するにしたがって大きくなり,変
形力とトレッド・路面間の摩擦力が等しくなる点ですべり出し, その点より後部ではトレ

 

第7章 タイヤの動的特性
ッドが横すべりを起こし すべり
摩擦力が発生している。 そして,
トレッドは接地部の後端で元の状
態に戻る。 これから, タイヤに発
生している横力は次のようにな
る。
横力= [トレッドの単位長さ当
りの横方向横弾性定数] ×[トレ
ッド部が変形した面積]
(2) リジッドベルト (リジッドリ
ング)をもつタイヤモデル
進行方向 1
路面からの力
接地面
リム
スリップα
164
トレッド(弾性体)
リム
⇒ 横
路面からの力
中心断面
図 7.4.1 ソリッドタイヤモデル
スチールラジアルタイヤは横曲
げ剛性がきわめて大きいスチールベルトをもっている。 そこでこのモデルは図7.4.2に示
すように,カーカス部の外周にリング状ベルトがあり,このリングは横方向にはリジッド
で曲がらないが, 半径方向には曲がり, タイヤの撓みを発生させるものとする。 リングは
カーカス部の弾性体によって支えられているので,リング全体が垂直軸回りのねじれ変形
や平行移動変形を起こすが,ここではねじれ変形については省略する。
このようなタイヤモデルがスリップ角αをもって横すべりしながら転動している場合を
考える。 接地部に注目すると, リング中心線が発生する横力によって yo だけ平行移動し
ている点が,前記のソリッドタイヤモデルとは異なるがその他はほとんど同じであり, ト
レッド表面が接地前端で路面と接触し、以後路面に粘着して 0~Aを移動し、変形力が
摩擦力に等しくなった点ですべり出し, 接地後端で元の状態に戻る。 タイヤに発生する横
力は,
横力=[トレッド単位長さ当りの横方向横弾性定数]×[トレッド部が変形した面積]
となり、前半部に粘着域が,後半部にすべり域が存在する。
(3) FIALA (9) のタイヤモデル(弾性リングモデル)
前記のリジッドベルトをもつタイヤモデルはベルト部が横方向へ曲がらないものとした
が,実際には多少曲がるので,本モデルは図7.4.3に示すように弾性リング状のベルトを
もち,そのリングが横力によって曲がることを考慮したモデルである。
このようなタイヤがスリップ角αをもって横すべりしながら転動している場合,接地
部におけるトレッドの変形の面積は図7.4.3(右) に示すように, ベルトが曲がった分だけ
少なくなり、この分だけ発生する横力も小さくなる。
7.4.2 コーナリングフォースとセルフアライニングトルク
(1) コーナリングフォースとセルフアライニングトルク
図 7.4.4 (左) に示すように, スリップ角αで横すべりしながら自由転動しているタイ
ヤに発生している力は,転動抵抗が小さいものとして省略すると, タイヤの横変形によっ
て発生する力はタイヤ軸方向の横力だけとなる。 この横力は進行方向に直角の成分(これ